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福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)584号 判決

控訴人(被告) 福岡県知事

被控訴人(原告) 出光興産株式会社

主文

原判決を取消す。

控訴人が、被控訴人に対し、門司財務事務所昭和二十六年三月十四日付徴税令書第一九五号を以て被控訴人の別紙目録記載物件の所有権取得についてなした過年度追徴不動産取得税金四十九万五千円の賦課処分は、金二十六万七千六百二十五円を超える部分を取消す。

被控訴人の、その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を被控訴人、その一を、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。(立証省略)

理由

被控訴会社は、昭和二十四年二月二十八日、株式会社三井本社から、その所有に属していた別紙目録記載物件(以下本件石油タンクと略称)を、その敷地建物並びに附属設備と共に、代金四百五十五万円を以て買受けその所有権を取得したが、右土地及び建物の所有権取得につき控訴人が福岡県税賦課徴収条例に基き不動産取得税を賦課したので、被控訴会社は直ちにその全額を納付したこと。然るに控訴人は、本件石油タンク四基を右条例に定める不動産取得税の課税対象である不動産であるとして、その取得当時の価格を四百九十五万円と評価の上、昭和二十六年三月十四日付でその所有権取得につき被控訴会社に対し、過年度追徴不動産取得税として、右評価額の十分の一に当る金四十九万五千円の賦課処分をしたことは当事者間に争がない。

而して、被控訴会社は「不動産取得税は独立の不動産に対してのみ課せられるべきものであるところ、控訴人が独立の不動産ではない本件石油タンクの取得に対し不動産取得税を課したのは違法であり、仮りに然らずとしても、本件石油タンクは、福岡県税賦課徴収条例に定める不動産取得税の課税対象に該当しないから、この点からいつても違法であつて取消を免れない」と主張し、控訴代理人は、右処分の適法なることを主張する。よつて、本件石油タンクが地方税法(昭和二十三年法律第百十号)第八十八条、福岡県税賦課徴収条例に定める不動産取得税の課税対象となるか否かにつき審究するに、右地方税法第八十八条は「不動産取得税は、不動産の取得に対しその価格を基準として、不動産所在の道府県において、その取得にこれを課する」と規定し、また右福岡県税賦課徴収条例は、その第五十八条において「不動産取得税は不動産の取得当時の時価を課税標準として、次の課率によりこれを課する」と定めるのみで、不動産取得税の課税対象となる不動産の定義を示さないが、民法第八十六条が動産と不動産の区別を定めており、動産不動産に関する社会的観念も概ね同条に定めるところに由来していると認められ、前記地方税法及び条例に於ても、特にこれを異なる意義に用いている形跡はないから、同地方税法第八十八条及び前記条例第五十八条に規定する不動産も同一に解するを相当とする。

而して民法第八十六条第一項は「土地及ビ其定著物ハ之ヲ不動産トス。此他ノ物ハ総テ之ヲ動産トス」と定めているが、同条にいう定著物なる文字及び定著物を不動産とした理由から考えると、定著物とは、土地の構成部分ではないが、土地に附著せしめられ、且その土地に永続的に附著せしめられた状態において使用されることがその物の取引上の性質であるものをいうと解すべきところ、原審及び当審における各検証の結果並びに当審証人三苫繁実の証言によれば、本件石油タンクは鋼製丸型貯油施設であつて、その重量容量はそれぞれ一六〇、〇屯(容量五、〇〇〇竏)一〇五、〇屯(容量三六〇〇竏)四五、〇屯(容量一〇〇〇竏)九、五屯(容量一〇〇竏)で土地に砂を盛つて、その上にタンクを置いただけのものであるが、恰も巨大なるドラム鑵を地上に置いたようなものであつて、その自重及び荷重により若干沈下し、永続的に土地に接着せしめられた状態において使用されるものであることを認め得るから、まさに定著物ということができる。而して定著物はすべて不動産であるが、そのすべてが「土地と独立して」不動産たり得るのではない。不動産登記法には土地及び建物以外登記し得べき不動産を認めないから、解釈論としては、定著物中建物及び立木法による立木登記を受けた樹木の集団のみが土地から独立して不動産の取扱を受け、その以外の土地の定着物は、土地と一体をなしてはじめて不動産としての取扱を受けるものと解する外はない。従つて本件石油タンクも土地から独立した不動産ではないが、土地と一体をなして不動産とせられるものといわなければならない。

然らば被控訴会社が本件石油タンクを、その定著せる土地及び地上建物と共に、訴外株式会社三井本社から売買により取得した事実に基き、控訴人が前記地方税法第八十八条、前記条例第五十八条、第五十九条により被控訴会社に対し不動産取得税を課したこと自体は何等違法ではない。

被控訴会社は、前記条例において、本件石油タンクの如きものを、不動産と見るべきや否やは、民法とは別に右条例の趣旨目的より、これを論定すべきものであるところ、前記条例第五十九条は、不動産取得税の定義と題し「不動産取得価格の算定は、次ぎに掲げる価格又はその合計額による。一、土地の価格、二、家屋(畳、建具その他の造作を含む)の価格、三、立木(竹木を含む)の価格、四、門、塀、垣、庭園その他附属築造物の価格」と定めているが、本件石油タンクの如きは、右列挙の物件のいずれにも該当しないから、前記条例にいう不動産ではなく、従つて不動産取得税の対象とはならないと主張する。しかしながら、前記条例第五十九条は、その規定の仕方から見ると、単に不動産取得価格の算定方法を示したに過ぎず、不動産取得税の対象となるものをこれだけに限定する趣旨とは解せられないから、同条列挙の物件は例示的列挙と解すべく、従つて、問題となる物件の種類及び名称がそのまま同条に掲げられていなくても、これを課税対象から除外したものと解することはできない。加うるに、同条の規定の仕方を見ると、不動産につき民法上の観念を採用していることが窺われるのであつて、まず課税対象たる不動産を土地(同条第一項)と土地の定著物(同条第二項以下)とに分ち、定著物を更に土地と独立して不動産たり得るもの(同条第二項の家屋、第三項の立木、但し立木は立木登記を経た立木、及び明認方法を施した樹木の集団と解する。)と土地と一体をなして不動産たり得るもの(第四項、門、塀、垣、庭園その他附属築造物)とに分ち、これ等のものの価格の算定方法を示しているのであつて、これによれば、土地と独立して不動産となり得るものでなくても、民法上土地と一体をなして、不動産と見られる定著物は、同条においても土地と一体をなして不動産たるものとして、これに対し不動産取得税を課する趣旨が明らかであるから、本件石油タンクは同条の解釈としては土地上の「築造物」としてこの最後のものに包含せられるもと解するのが相当である。

加うるに、右第五十九条を、その文理の背後に存する趣旨目的に照らして考えると、本件石油タンクの如きは、前認定の構造、規模、用途において、建物(恰も巨大な金属性の倉庫)に近似するから、建物の取得に対し課税する以上、本件石油タンクの如きを課税対象から除外することは寧ろ均衡を失する。更に同条は土地又は家屋と共に門、塀、垣、庭園等、土地に定着し、これと一体をなす所謂土地の定著物を取得した場合においては、単に土地又は家屋のみに不動産取得税を賦課するのみならず、右の如き土地の定著物をも土地と一体をなして不動産たるものとして、土地及び家屋と共に同税の課税対象とすることを明らかにしているから、本件における如く建物及び土地と共に、その土地上の石油タンク―前記門、塀、垣、庭園等とは、通常比較にならない程経済的価値の大なる定著物―を併せ取得した場合において、単に建物及び土地のみを課税対象とし石油タンクの如きは、これを除外する趣旨とするならば、彼此の均衡を失することも明らかである。以上の諸点を併せ考えると、本条第四項にいう附属築造物とは土地の定著物中本条各項に、その種類名称を列挙せられざるものをも広く包括し本条は、これを以て土地と一体をなして不動産たるものと解し、その評価方法を定めているもの、従つて本件石油タンクの如きも、土地の定著物として、土地と一体をなして不動産と見られ、右「築造物」の中に包含されていると解する方が寧ろ同条の立法趣旨に適合するということができる。もつとも、右第四項は「附属築造物」といい、附属の文字が、土地に比較し経済的価値の小なるもの、すなわち土地に従たるもの、を指称する感がないでもないが、仮りにさうだとしても、既に説示したとおり、本条は単に課税物件の評価方法を示すに過ぎずして、課税物件を限定的に列挙する趣旨ではないのであるから、これだけでは石油タンクを課税対象から除外する根拠にはなり得ないのみならず、同条の立案者としては立案の当時、本件石油タンクの如く土地よりも著しく経済的価値の大なるもののあることに想到しなかつた為、建物、立木以外の定著物が、概ね土地に従属する程度の経済価値しか有しない通例の事態に着眼して「附属築造物」の文字を用いたに過ぎず、土地に比較しその定著物の経済的価値の大小によつて、課税対象にしたりしなかつたりする趣旨でないことは明らかである。更に右附属築造物の「附属」の文字に含まれる意味を吟味して見ると、民法上も沿革上の理由から土地を主体として不動産を考えているのと同様に、本条もまず土地を主体とし定著物についてはその経済的価値の大小とは別個にこれと土地との関係を示し、「土地から独立したものではなくて土地と一体をなすもの」との意味で「附属」築造物といつているものとも解せられるから、この点からいえば、単に「附属」の文字を根拠として右第四項の「附属築造物」を以て、土地に従たる築造物のみに限定するのは正当でない。

右のとおり、本件石油タンクはその敷地と一体をなして不動産となり、前記不動産取得税の課税対象となるものであるところ、成立に争のない乙第三号証、原審及び当審証人日高彰悟、当審証人柴田護、同上梶屋津則の各証言を綜合すれば、控訴人としては、本件石油タンクに対する課税は前例のないことであつた為、課税の可否につき地方財政委員会、地方自治庁に照会する等その研究調査に日時を費し、その為土地建物と同時に課税することができなかつたので、昭和二十五年度には、敷地建物のみにつき課税処分をなし、翌二十六年三月十四日に至つて、本件石油タンクのみにつき過年度追徴として前記課税処分をしたものであることを認め得るが、既述の如く、石油タンクは、その敷地と一体をなして不動産として取扱われるものであるけれども、その価格の評価についてはその敷地自体の価格と、石油タンクの価格とに分けて、別々に算定することも可能であると考えられるから、先ず敷地の評価額に基いて課税し、後に石油タンクの評価額に基いて追徴をなすことも許さるべきであつて、本件課税処分は、この点についても何等違法のかどはない。

次ぎに被控訴会社は、本件課税処分は、価格の算定を誤つた違法があると主張するのでこの点について審究するに、成立に争のない甲第三号証の一、二及び同号証と弁論の全趣旨に徴し、当裁判所が真正に成立したと認める甲第一号証によれば、本件石油タンクについては、財閥解体に際し、持株整理委員会監督の下に、売主たる株式会社三井本社が日本勧業銀行に依嘱して、本件四基の石油タンクの時価を鑑定せしめた結果、昭和二十三年十月三十日当時における右物件の価格は、ポンプ一台(モーター付)の価格を加えて二百八十万千二百四十八円と鑑定されたことを認め得るが、この価格は日本勧業銀行が公的な立場に立つて鑑定をしたものである点、及び当時の経済事情、殊に貯油施設に対する需要者の資力、当時の石油業界の見透し等取引価格の決定に重要な影響のある諸点が参酌されていると推認せられる点等において、本件に顕われた他のすべての鑑定人の評価額よりも正確な交換価格乃至取引価格を示していると考えられるが、右物件が被控訴会社に売渡されたのは昭和二十四年二月二十八日のことであつて、右鑑定の時からさして日時も経過していないから、反証のない本件では売買当時の価格もこれによるのが相当であると思量され、(他の鑑定人の鑑定は採用できない。)これに比較すれば、本件課税額算定の基礎となつた控訴人の評価額は過大に失するものと認められる。但し右日本勧業銀行の評価額中にはポンプ一台(モーター付)の価格を含んでいるから、これを差引かなければならないが、これについては、同銀行の評価したものがなく、この分については、原審鑑定人大成利雄の鑑定書によるのが最も適正であると認められるから(この点に関する他の鑑定人の鑑定は採用できない。)右鑑定書中のポンプに対する評価額十二万五千円を採用して、これを前記二百八十万千二百四十八円より差引くべく、残り二百六十七万六千二百四十八円が、本件石油タンク四基の昭和二十四年二月二十八日当時の最も正確な時価であると認められる。

従つて本件物件に対する不動産取得税の課税額は、二百六十七万六千二百四十八円の一割に相当する二十六万七千六百二十五円を超えないものであるべきところ、控訴人がこれを超ゆる金額の課税処分をしたのは違法であるから、右超過部分に関する限り本件課税処分は、これを取り消さなければならない。従つて被控訴会社の本訴請求は、右の限度において正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきところ、原判決がその請求全部を認容し、本件課税処分全部を取消したのは正当でないから、原判決を取消し、民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)

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